裏ハムラの複視について
- 5月11日
- 読了時間: 4分
更新日:5月13日

裏ハムラ手術の術後合併症としての複視が話題になっていると耳にしました。
この機会に、私がこの20年あまりの間に経験した裏ハムラの複視について書きたいと思います。
複視について
まず、複視について説明します。
複視というのは、1つの物が2つに見える状態のことをいいます。つまりダブって見えるということです。われわれの目は、左右の2つの目で少し異なる角度から物を見てその情報を脳がまとめて1つにして認識していますが、そのバランスが崩れると複視が生じます。
複視には、両眼性複視と単眼性複視があります。両眼性複視の場合は、片眼を閉じると複視が消えます。つまり、両目で見る機能が障害されています。原因としては、斜視、外眼筋麻痺、外傷による外眼筋障害、急激な眼位の変化などがあります。一方、単眼性複視は、片眼でも二重に見えます。原因は、角膜の問題(乱視など)、白内障、水晶体の問題などがあります。
われわれ形成外科医が遭遇する複視には、眼窩底骨折がメインでしょう。私も形成外科医として眼窩底骨折の治療に携わってきましたので、たくさんの複視を診てきました。典型的な複視は、小児の眼窩底骨折の際に生じやすいwhite eyed blowout fractureです。これは、主に眼窩下壁の骨折線に下直筋やその筋膜などが挟まってしまい基本的には上転障害を生じるものです。下転障害を生じることもあります。このタイプの眼窩底骨折は、直後のめまいや嘔吐などのいわゆる眼心反射症状が出現するので、緊急手術で少しでも早期に下直筋の絞扼を解除する必要があります。一方、成人の眼窩底骨折は骨折部分が観音開きに開きっぱなしになることが多く、眼心反射はあまり生じません。CTやMRIの画像所見も加味して、緊急手術するか保存的に加療するかを決定します。画像所見上で明らかな絞扼所見がなければ、眼球運動練習を行います。患側の眼のみ(正常な眼を隠して)で目標物を見ながら上下左右に眼を動かします。これで、眼球運動の範囲を広げます。視野において複視のない領域がある、例えば正面複視はなく上方視のみで軽い複視があるなどという場合には、両眼視訓練も行うことがあります。詳しくは長くなってしまうので割愛します。
では、以下に裏ハムラの術後に生じる複視について説明していきます。
裏ハムラ術後の複視
術直後の複視
手術が終了した直後、静脈麻酔や全身麻酔下で行った場合は、意識がある程度はっきりしてからの複視の訴えは、これはよくあります。眠くなる麻酔の影響が考えられます。
術後1-2時間後の複視
静脈麻酔など眠る麻酔から覚めた後に複視が生じている場合も比較的よくあります。私には50回以上の経験があります。ほとんどは局所麻酔の影響で下斜筋が麻痺しているものと思います。数時間で改善します。
術後2-3日後の複視
術後2-3日経過しても複視が残存する場合は、クリニックまでご連絡いただくようにと説明しています。2-3日経てばもう局所麻酔薬の影響はないはずですので、眼球運動障害が生じていると考えられます。私には10人程度の経験がありますが、2-3人を除いて2週間以内に複視は消失しました。
術後2週間以降残存する複視
これは、下斜筋や下直筋に何らかの機械的障害が生じていると考えられます。幸い私の場合は、正面複視、つまり真っ正面を見るときに複視が生じているケースの経験はありませんでしたが、上方視で複視の消失に1ヵ月程度の時間を要した方がいらっしゃいました。
手術中の注意点
複視を防ぐために、この20年間私が考えてきたことをまとめておきましょう。
最初の5年ぐらいはやや複視の訴えが多かったと思います。
内側の眼窩脂肪をしっかり移動させたときに、生じやすいという印象を受けましたので、眼窩脂肪の移動に伴って下斜筋が引っ張られて動きに制限がかかってしまっているのではないかと考えました。それで、下斜筋と内側の眼窩脂肪弁の間をしっかり剥離するようにしました。その結果、複視の訴えは減りました。
下直筋の損傷は極めて重篤な眼球運動障害を引き起こしますので、絶対に犯してはならないミスですが、あり得ないとはいえません。これは、結膜切開後の剥離方向を間違えることによって生じます。CPFの前葉方向に剥離を進めてしまうと下直筋を傷害してしまう危険があります。油断してはいけません。いつも常に、注意すべきです。
最後に、
複視は、視機能に直結する合併症です。下眼瞼の美容手術で生じてはならない合併症ですが、絶対に生じないとはいえないものです。裏ハムラも表ハムラも脱脂もそうですが、眼窩内を操作する手術においては、複視の発生は絶対にないとはいえません。そのような場合の対処のために眼窩内を操作する手術を取り扱う医師には眼窩底骨折の治療経験ぐらいは必要と思います。

甲府昭和形成外科クリニック
百澤 明
▼ 当院の裏ハムラ治療について



